●予後
治療しない場合,感染性心内膜炎は常に致死的である。
治療を行っても,高齢者や耐性菌感染者,基礎疾患のある者,または治療が大幅に遅れた場合は死亡する可能性が高く,一般的に予後不良となる。
大動脈弁または複数の弁が冒されているとき,大きな疣贅,多種の菌血症,人工弁感染,真菌性動脈瘤,弁輪膿瘍,および重大な塞栓イベントがある場合にも予後が悪い。
重大な合併症がない緑色レンサ球菌心内膜炎の死亡率は10%未満であるが,人工弁手術後のアスペルギルス心内膜炎の死亡率は実質100%である。
右心系心内膜炎は左心系心内膜炎よりも予後がよいが,これは三尖弁の機能障害は比較的耐容性があること,全身性の塞栓が生じないこと,黄色ブドウ球菌による右心系心内膜炎は抗菌薬療法に対する反応がよいことによる。
●治療
治療は,長期の抗菌薬療法によって行う。
機械的合併症や耐性菌が認められた場合には,手術が必要なこともある。
通常,抗菌薬は静脈内投与する。
抗菌薬は2〜8週間投与するべきであるため,しばしば在宅での静注治療が行われる。
菌血症の感染源が明らかな場合は処置を行う:壊死組織は切除し,膿瘍は排膿し,異物や感染した器具を取り除く。
静脈内カテーテル(特に中心静脈カテーテル)を留置している場合は,交換しなければならない。
新たに中心静脈カテーテルを挿入した患者において心内膜炎が持続する場合は,そのカテーテルも抜去する。
カテーテルなどの器具に付着してバイオフィルムに覆われた微生物は,抗菌薬療法に反応せず,治療が無効となったり再発に至ったりする場合がある。
間欠ボーラス投与ではなく持続注入を行う場合は,注入を長期間中断すべきではない。
抗生物質療法: 薬物と投与量は,微生物とその抗菌薬感受性によって異なる。
微生物を同定する前の初期療法では,可能性のある全ての微生物に対して効果を示す広域スペクトル抗菌薬を使用すべきである。
典型的には,自然弁で静注薬物乱用者でない患者に対しては,アンピシリン500mg/時,持続静注;ナフシリン2g,静注,4時間毎;ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎を併用する。
人工弁の患者に対しては,バンコマイシン15mg/kg,静注,12時間毎;ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎;リファンピン,300mg,経口投与,8時間毎を併用する。
静注薬物乱用者に対しては,ナフシリン2gを4時間毎に静注する。
いずれの処方においても,ペニシリンアレルギーの患者についてはバンコマイシン15mg/kg,静注,12時間毎を代わりに使用する。
静注薬物乱用者はしばしば治療を遵守せず,静注ラインを悪用し,退院が早すぎる傾向がある。
そのような患者に対しては,短期の静注または(次善策として)経口療法を行ってもよい。
メチシリン感受性黄色ブドウ球菌による右心系心内膜炎の場合は,ナフシリン2g,静注,4時間毎とゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎の2週間併用投与が有効であり,シプロフロキサシン750mg,経口投与,1日2回とリファンピン300mg,経口投与,1日2回の併用療法も同様に有効である。
左心系心内膜炎は2週間の治療クールには反応しない。
●心臓弁手術: 膿瘍,抗菌薬療法にもかかわらず持続感染がみられる場合(すなわち,持続的な血液培養陽性や再発性塞栓),または重度の弁逆流の場合は,しばしば手術(壊死組織切除,弁修復術,または弁置換術)が必要となる。
手術のタイミングには経験に基づく臨床的判断が要求される。
手術で治療できる病変に起因する心不全が悪化しつつある場合(特に微生物が黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,または真菌のとき)は,手術が抗菌薬療法のわずか24〜72時間後に必要となることがある。
人工弁の患者で手術が必要となるのは,TEEで弁周囲膿瘍による弁の裂開が認められた場合,弁機能障害によって心不全が誘発された場合,再発性塞栓が認められた場合,または感染が抗菌薬耐性菌による場合である。
ラベル:心臓の病気