2014年06月27日

感染性心内膜炎について(4)

●感染性心内膜炎について(4)


●予後

治療しない場合,感染性心内膜炎は常に致死的である。

治療を行っても,高齢者や耐性菌感染者,基礎疾患のある者,または治療が大幅に遅れた場合は死亡する可能性が高く,一般的に予後不良となる。

大動脈弁または複数の弁が冒されているとき,大きな疣贅,多種の菌血症,人工弁感染,真菌性動脈瘤,弁輪膿瘍,および重大な塞栓イベントがある場合にも予後が悪い。

重大な合併症がない緑色レンサ球菌心内膜炎の死亡率は10%未満であるが,人工弁手術後のアスペルギルス心内膜炎の死亡率は実質100%である。

右心系心内膜炎は左心系心内膜炎よりも予後がよいが,これは三尖弁の機能障害は比較的耐容性があること,全身性の塞栓が生じないこと,黄色ブドウ球菌による右心系心内膜炎は抗菌薬療法に対する反応がよいことによる。



●治療

治療は,長期の抗菌薬療法によって行う。

機械的合併症や耐性菌が認められた場合には,手術が必要なこともある。

通常,抗菌薬は静脈内投与する。

抗菌薬は2〜8週間投与するべきであるため,しばしば在宅での静注治療が行われる。



菌血症の感染源が明らかな場合は処置を行う:壊死組織は切除し,膿瘍は排膿し,異物や感染した器具を取り除く。

静脈内カテーテル(特に中心静脈カテーテル)を留置している場合は,交換しなければならない。

新たに中心静脈カテーテルを挿入した患者において心内膜炎が持続する場合は,そのカテーテルも抜去する。

カテーテルなどの器具に付着してバイオフィルムに覆われた微生物は,抗菌薬療法に反応せず,治療が無効となったり再発に至ったりする場合がある。

間欠ボーラス投与ではなく持続注入を行う場合は,注入を長期間中断すべきではない。



抗生物質療法: 薬物と投与量は,微生物とその抗菌薬感受性によって異なる。

微生物を同定する前の初期療法では,可能性のある全ての微生物に対して効果を示す広域スペクトル抗菌薬を使用すべきである。

典型的には,自然弁で静注薬物乱用者でない患者に対しては,アンピシリン500mg/時,持続静注;ナフシリン2g,静注,4時間毎;ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎を併用する。

人工弁の患者に対しては,バンコマイシン15mg/kg,静注,12時間毎;ゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎;リファンピン,300mg,経口投与,8時間毎を併用する。

静注薬物乱用者に対しては,ナフシリン2gを4時間毎に静注する。

いずれの処方においても,ペニシリンアレルギーの患者についてはバンコマイシン15mg/kg,静注,12時間毎を代わりに使用する。



静注薬物乱用者はしばしば治療を遵守せず,静注ラインを悪用し,退院が早すぎる傾向がある。

そのような患者に対しては,短期の静注または(次善策として)経口療法を行ってもよい。

メチシリン感受性黄色ブドウ球菌による右心系心内膜炎の場合は,ナフシリン2g,静注,4時間毎とゲンタマイシン1mg/kg,静注,8時間毎の2週間併用投与が有効であり,シプロフロキサシン750mg,経口投与,1日2回とリファンピン300mg,経口投与,1日2回の併用療法も同様に有効である。

左心系心内膜炎は2週間の治療クールには反応しない。




●心臓弁手術: 膿瘍,抗菌薬療法にもかかわらず持続感染がみられる場合(すなわち,持続的な血液培養陽性や再発性塞栓),または重度の弁逆流の場合は,しばしば手術(壊死組織切除,弁修復術,または弁置換術)が必要となる。

手術のタイミングには経験に基づく臨床的判断が要求される。

手術で治療できる病変に起因する心不全が悪化しつつある場合(特に微生物が黄色ブドウ球菌,グラム陰性桿菌,または真菌のとき)は,手術が抗菌薬療法のわずか24〜72時間後に必要となることがある。

人工弁の患者で手術が必要となるのは,TEEで弁周囲膿瘍による弁の裂開が認められた場合,弁機能障害によって心不全が誘発された場合,再発性塞栓が認められた場合,または感染が抗菌薬耐性菌による場合である。

ラベル:心臓の病気
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2014年06月25日

感染性心内膜炎について(3)

●感染性心内膜炎について(3)


●症状と徴候

SBE: 初期症状は漠然としている:微熱(39°℃未満),寝汗,易疲労性,倦怠感,および体重減少である。

悪寒や関節痛が起こることもある。

弁機能不全の症状と徴候が最初の手がかりとなることがある。

初期に発熱や心雑音を呈する患者は15%未満であるが,最終的にはほとんど全ての患者が両方とも発症する。

身体診察は正常であるか,または蒼白,発熱,既存の心雑音の変化または新たな逆流性雑音の出現,頻拍が認められることがある。



網膜の塞栓により,円形または卵形で白い小さな中心をもつ網膜の出血病変(ロート斑)が生じる場合がある。

皮膚症状には点状出血(体幹の上部,結膜,粘膜および四肢末端),指の先端にみられる有痛性の紅斑性皮下結節(オスラー結節),手掌または足底の圧痛のない出血斑(ジェーンウェー病変),爪下の線状出血がある。



一過性脳虚血発作,脳卒中,中毒性脳症,中枢神経系の真菌性動脈瘤が破裂した場合には脳膿瘍やクモ膜下出血など,中枢神経系の影響が患者の約35%にみられる。

腎塞栓は側腹部痛およびまれに肉眼的血尿を引き起こす場合がある。

脾臓の塞栓は左上腹部痛を引き起こす場合がある。

長期にわたる感染は脾腫や手足の指のばち状化を引き起こす場合がある。




ABEおよびPVE: 症状と徴候はSBEのそれに類似しているが,経過はより速い。

初期の発熱はほぼ必発で,患者は中毒症状を呈する;ときには敗血症性ショックを発症する。

心雑音は初期には約50〜80%においてみられ,最終的には90%を超える。

まれに,化膿性髄膜炎が起こる。



右心系心内膜炎: 敗血症性肺塞栓によって咳や胸膜炎性胸痛が出ることがあり,ときおり喀血がみられる。三尖弁逆流の雑音は典型的である。




●診断

症状や徴候が特異的でなく,変化に富み,潜行性に生じるため,診断には高度の疑いを要する。

発熱があり感染源が不明な患者で,特に心雑音がある場合には,心内膜炎を疑うべきである。


心臓弁疾患の既往がある患者や,最近何らかの侵襲的手技を受けた患者,または静注薬物乱用患者で血液培養が陽性である場合は,心内膜炎の疑いがきわめて強い。

菌血症が確認された患者については,新たな弁性雑音や塞栓の徴候が現れていないか徹底的に何度も診察すべきである。



心内膜炎が疑われる場合,24時間以内に3回の血液培養(各20mL)を行うべきである(症状からABEが示唆される場合は,最初の1〜2時間以内に2回の血液培養を行う)。

心内膜炎を発症しており,前もって抗生物質療法を受けていない場合は,菌血症が持続しているため,通常は3回の血液培養がいずれも陽性となる;少なくとも1回の血液培養が99%の確率で陽性となる。

前もって抗菌薬療法が行われた場合にもやはり血液培養を行う必要があるが,陰性である可能性がある。



通常は,経食道心エコー検査(TEE)ではなく,経胸壁心エコー検査(TTE)を実施する必要がある。

TEEはいくぶん精度が高いが,侵襲的であり費用がより高い。

人工弁を装着している患者で心内膜炎が疑われる場合,TTEで診断が確定できない場合,また,感染性心内膜炎の診断が臨床的に確定されている場合には,TEEを実施すべきである。



血液培養で陽性となる以外に,特異的な臨床検査所見はない。

感染が成立すると,正球性-正色素性貧血,白血球数増加,赤血球沈降速度亢進,免疫グロブリンの増加,循環血液中の免疫複合体,およびリウマトイド因子陽性をしばしば認めるが,これらの所見は診断の助けとはならない。

尿検査結果はしばしば顕微鏡的血尿,ときに赤血球円柱,膿尿,細菌尿を示す。



微生物の同定およびその抗菌薬感受性は治療の方針を決めるために必要である。

ある種の微生物は,血液培養に3〜4週間の培養期間を要する。

培養陽性とならないことがある微生物(例,アスペルギルス属)もある。

血清診断法が必要な微生物(例,コクシエラ-バーネッティ,バルトネラ属,クラミジア-シッタシ,ブルセラ属)や,特別な培地が必要な微生物(例,レジオネラ-ニューモフィラもある。血液培養の結果が陰性のときは,以前の抗菌薬療法による抑制,標準的な培地では増殖しない微生物による感染,または他の診断(例,非感染性心内膜炎,塞栓現象を伴う心房粘液腫,脈管炎)が示唆される。



感染性心内膜炎は,心臓手術時,塞栓摘出術時,または剖検時に採取した心内膜の疣贅中に微生物が組織学的に認められた場合(あるいは疣贅の培養中に認められた場合)に診断が確定される。

通常は疣贅を診察に用いることができないため,診断を確立するための臨床基準(感度と特異度が90%超)が開発された。

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2014年06月22日

感染性心内膜炎について(2)

●感染性心内膜炎について(2)


●分類

感染性心内膜炎は,無痛性かつ亜急性の経過をたどることもあれば,急激な代償不全に至る可能性が高い,より急性かつ劇症の経過をたどることもある。



●亜急性細菌性心内膜炎(SBE)は侵襲性であるが,通常は潜行性に発症し,緩徐に(すなわち,数週間から数カ月かけて)進行する。

しばしば,感染源や侵入門戸は明らかでない。

SBEは,最も一般的にはレンサ球菌(特に緑色レンサ球菌,微好気性と嫌気性レンサ球菌,非腸球菌D群レンサ球菌,および腸球菌)によって起こり,一般的ではないが,黄色ブドウ球菌,表皮ブドウ球菌,および選好性の ヘモフィルス属によって起こる。

SBEは,しばしば歯周,消化管,または泌尿生殖器の感染による無症状の菌血症を発症後,異常な弁に生ずる。



●急性細菌性心内膜炎(ABE)は通常,突然発症し,急速に(すなわち,数日間かけて)進行する。

感染源や侵入門戸はしばしば明らかである。

細菌の病原性が高い場合や細菌に大量に暴露した場合は,正常な弁にABEが生じることがある。

ABEは通常,黄色ブドウ球菌,A群溶血性レンサ球菌,肺炎球菌,または淋菌によって起こる。



●人工弁心内膜炎(PVE)は,弁置換術を受けて1年以内の患者の2〜3%に生じ,それ以後には年0.5%で生じる。

僧帽弁よりも大動脈弁の弁置換術後に起こりやすく,機械弁も生体弁も同等に罹患する。

早期発症の感染症(術後2カ月未満のもの)は,抗菌薬耐性の微生物(例,表皮ブドウ球菌,類ジフテリア菌,大腸菌型桿菌,カンジダ属,アスペルギルス属)による術中の汚染によって主に引き起こされる。

晩期発症の感染症は,病原性が低い微生物による術中の汚染や,一過性の無症候性の菌血症により主に引き起こされ,しばしばみられる微生物にはレンサ球菌;表皮ブドウ球菌;類ジフテリア菌;および選好性グラム陰性桿菌,ヘモフィルス属,アクチノバシラス-アクチノマイセテムコミタンス,およびカルジオバクテリウム-ホミニスがある。

ラベル:心臓の病気
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2014年06月19日

感染性心内膜炎について

●感染性心内膜炎について

感染性心内膜炎とは心内膜の感染症であり,通常は細菌(一般的にはレンサ球菌およびブドウ球菌)または真菌による。

感染性心内膜炎は,発熱,心雑音,点状出血,貧血,塞栓現象,および心内膜の疣贅を引き起こす。

疣贅は弁の機能不全や閉塞,心筋膿瘍,または真菌性動脈瘤を引き起こしうる。

診断には血中微生物の証明,および通常は心エコー検査が必要である。

治療には長期にわたる抗菌薬療法を用い,ときに手術を施行する。

心内膜炎は年齢を問わず起こりうる。

男性は女性の約2倍の割合で罹患する。

静注薬物乱用者や免疫不全状態の患者は最もリスクが高い。



●感染性心内膜炎の病態生理と病因

正常な心臓は感染に対して比較的抵抗力がある。

細菌および真菌は心内膜表面に容易には付着せず,一定の血流が菌の心内膜組織への定着を防ぐ助けとなる。

したがって,心内膜炎には一般的に2つの要因,すなわち素因となる心内膜の異常および血流中の微生物(菌血症)が必要である。

まれに,重篤な菌血症または特に病原性の高い微生物により,正常な弁に心内膜炎が生じる。




●心内膜に関する要因:

心内膜炎は通常,心臓弁を侵す。

主な素因は,先天性心臓欠陥,リウマチ性の弁膜症,二尖弁または石灰化した大動脈弁,僧帽弁逸脱,肥大型心筋症である。

人工弁は特にリスクが高い。ときに壁在血栓,心室中隔欠損,動脈管開存部位に感染することがある。

実際の感染病巣は通常,傷害された内皮細胞が組織因子を放出する際に形成される無菌性のフィブリンと血小板の疣贅である。

感染性心内膜炎は左心系に生じることが最も多い(例,僧帽弁または大動脈弁)。

症例の約10〜20%は右心系である(三尖弁または肺動脈弁)。

静注薬物乱用者は右心系の心内膜炎の発生率がはるかに高い(約30〜70%)。



●微生物:

心内膜に感染する微生物は,遠隔の感染部位(例,皮膚膿瘍,UTI)に由来する場合もあるが,中心静脈カテーテルまたは薬物注射部位など侵入門戸が明らかな場合もある。

植え込まれた異物(例,脳室または腹腔シャント,器具)はほとんどどのようなものでも細菌コロニー形成のリスクを有するため,菌血症ひいては心内膜炎の感染源となる。

心内膜炎は,侵襲的な歯科的,内科的,外科的な手技において典型的に起こる無症候性の菌血症によっても生じうる。

歯肉炎患者においては歯磨きや咀嚼で菌血症(通常は緑色レンサ球菌による)が生じることもある。


原因菌は感染部位,菌血症の感染源,宿主の危険因子(例,静注薬物の乱用)により異なるが,全体としては80〜90%の症例がレンサ球菌および黄色ブドウ球菌に起因する。

腸球菌,グラム陰性桿菌,HACEK微生物(グラム陰性桿菌: HACEK群感染症を参照 および心内膜炎: 心内膜炎に対する抗生物質療法),および真菌がその他のほとんどの症例の原因菌となっている。

なぜレンサ球菌およびブドウ球菌が疣贅にしばしば付着し,なぜグラム陰性好気性桿菌がめったに付着しないのかは不明である。

しかしながら,フィブロネクチンに対する黄色ブドウ球菌の付着能は,緑色レンサ球菌によるデキストラン生成と同様に一定の役割を果たしている可能性がある。

微生物は疣贅にコロニーを形成した後,フィブリンや血小板の層で覆われ,好中球,免疫グロブリン,および補体の接触を受けないようになり,これによって宿主の防御機構を遮断する。



●結果: 心内膜炎の結果は局所および全身に生じる。

局所に生じる結果には,組織破壊を伴う心筋膿瘍の形成,ときに伝導系の異常(通常は中隔下部の膿瘍を伴う)などがある。重度の弁逆流が突然生じ,心不全や死亡に至る場合がある(通常は僧帽弁または大動脈弁病変による)。隣接部位への感染の波及が大動脈炎をもたらすことがある。人工弁感染は特に,弁の閉塞,裂開,および伝導障害の所見を呈する弁輪膿瘍,閉塞性疣贅,心筋膿瘍,真菌性動脈瘤を生じやすい。

全身に生じる結果は主に心臓弁から遊離した感染物質の塞栓形成が原因となり,主に慢性感染症,免疫介在性の現象にみられる。右心系病変は,典型例では敗血症性肺塞栓を生じ,肺梗塞,肺炎,または膿胸に至ることがある。左心系病変は,あらゆる臓器,特に腎臓,脾臓,中枢神経系の塞栓を招く。真菌性動脈瘤はどの主要動脈にも形成されうる。皮膚および網膜の塞栓が一般的にみられる。びまん性糸球体腎炎は,免疫複合体の沈着が原因となって生じる場合がある。


ラベル:心臓の病気
posted by ホーライ at 22:59| Comment(0) | TrackBack(0) | 感染症 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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