●診断
診断は臨床像で行う( 皮膚炎: アトピー性皮膚炎の臨床的所見*表 1: 表を参照)。
ADはしばしば他の皮膚疾患(例,脂漏性皮膚炎,接触皮膚炎,貨幣状皮膚炎,乾癬)との鑑別が困難であるが,アトピーの家族歴および病変の分布が鑑別に役立つ。
乾癬は通常屈側よりも伸側に分布して,手指の爪を侵すことがあり,ADよりも光沢のある(雲母状)鱗屑を伴う。
脂漏性皮膚炎は顔面(例,鼻唇溝,眉毛,眉間部,頭皮)に最も好発する。
貨幣状皮膚炎は屈側に生じず,苔癬化することはまれである。
ADのアレルギー性増悪因子は,皮膚テストおよび/またはアレルゲン特異性IgE濃度の測定で同定できる。
患者に他の皮膚疾患が発症する可能性もあるので,続発する皮膚疾患が全てADに由来するわけではない。
●予後と治療
小児のADはしばしば5歳までに改善するが,思春期を通して,さらには成人期になっても増悪がよくみられる。
女児および重症の患者,発症の早い患者,家族歴のある患者,鼻炎または喘息を伴う患者では,本疾患の長引く傾向がある。
このような患者でも,ADは30歳までに完全消退することが多い。
人格の形成期に,目に見え,ときには身体障害を来す皮膚疾患を背負って生きるという数多くの課題に小児が直面するため,ADでは長期にわたって心理学的続発症を来すことがある。
長期にわたるAD患者は,20代か30代に白内障を発症することがある。
治療は通常家庭で行えるが,剥脱性皮膚炎(皮膚炎: 剥脱性皮膚炎を参照 ),蜂巣炎,ヘルペス性湿疹の患者は入院が必要なこともある。
支持療法:
スキンケアとして保湿がある。入浴および手洗いは頻繁に行わず,ぬるま湯(熱くない)を使用するべきである;セッケンは病変を乾燥させ刺激となるので,皮膚炎部での使用は最小限にとどめるべきである。
コロイド性のオートミール浴が有用なこともある。
ボディオイルを使用したり,白色ワセリン,植物油,親水ワセリン(患者がラノリンにアレルギーがなければ)などの皮膚軟化剤を入浴直後に外用すれば,有用なことがある。
重症の病変に対しては,持続的に湿ったドレッシング(wet-to-dryドレッシングではなく)を用いてもよい。
コールタールクリームまたはコールタール油は効果的な止痒性外用薬である。
抗ヒスタミン薬はそう痒の軽減に役立つ。
抗ヒスタミン薬の使用法として,ヒドロキシジン25mg,経口,1日3回または4回投与(小児では,0.5mg/kgを6時間毎,または2mg/kgを単回投与で眠前に投与)およびジフェンヒドラミン25〜50mg,経口,眠前投与がある。
ロラタジン,フェキソフェナジン,セチリジンといった鎮静作用の弱いH1ブロッカーが効くこともあるが,それらの有用性はまだ確定していない。
三環系抗うつ薬のドキセピンもH1および H2レセプター遮断作用を持ち,25〜50mg,経口,眠前投与を行えば有益かもしれないが,12歳未満の小児では勧められない。
手指の爪は短く切り,引っかき傷や二次感染を最小限にとどめるべきである。
増悪因子の回避:
家庭内の抗原は,合成繊維の枕や不透過性のマットレスカバーを使用する;熱湯で寝具を洗う;布張り家具,柔らかい玩具,カーペット,ペット(チリダニおよび動物のフケ)を除去する;地下室などの風通しの悪い湿った部屋では除湿器を使う(カビを減らすため)ことで制御できる。
情動的ストレスの軽減は有効であるが,しばしば困難である。
抗ブドウ球菌性抗生物質は,外用薬(ムピロシン,フシジン酸)であれ内服薬(ジクロキサシリン,セファレキシン,エリスロマイシン,いずれも250mg,1日4回投与)であれ,黄色ブドウ球菌の鼻腔内コロニーを制御でき,特異的な治療に反応せず鼻腔培養が陽性の重症患者に適応である。
抗原性をもつ食物に対する暴露を除く目的で広範な食事変更を行うことは不要であり,おそらく効果がない;食物過敏症が小児期を過ぎても持続することはまれである。
コルチコステロイド:
コルチコステロイドは中心的な治療手段である。
クリームまたは軟膏を1日2回塗布すれば,軽症から中等症の患者の大半で有効である。
皮膚軟化剤はコルチコステロイドの塗布の間に用いるが,病変部に外用するコルチコステロイドの必要量を減らすために,コルチコステロイドと混合してもよい。
コルチコステロイドの全身投与(プレドニゾン60mg投与,または小児では1mg/kg,経口,1日1回投与,7〜14日の短期間使用)は病変が広範で難治性の場合に適応であるが,しばしば病変が再発し外用療法の方が安全なので,可能なら避けるべきである。
乳幼児に対し長期かつ広範に強力なコルチコステロイドクリームまたは軟膏を使用するのは,副腎抑制を続発させることがあるので避けるべきである。
他の治療法:
タクロリムスおよびピメクロリムスはADに有効なT細胞阻害薬である。
これらの薬剤は,患者がコルチコステロイドやタール剤に反応しない時,または皮膚萎縮,皮膚伸展線条の形成,副腎抑制などコルチコステロイドの副作用が懸念されるときに用いるべきである。
タクロリムスまたはピメクロリムスのクリームは1日2回塗布する。
塗布後のほてり感またはピリピリ感は通常一過性であり,数日後には軽減する。潮紅はさらに少ない。
光線療法は広範なADに有用である。
自然の日光を浴びれば,多くの患者で病気が軽快する。
別法として,紫外線A(UVA)または紫外線B(UVB)を用いた治療を行ってもよい。
ソラレンを用いるUVA療法(PUVA―乾癬および鱗屑を伴う疾患: 光線療法を参照 )は広範で難治性のADに残しておく。
副作用には日光による障害がある(例,PUVA黒子,黒色腫以外の皮膚癌);このため,PUVAは小児や若年成人に適応となることはまれである。
少なくとも一部の患者で有効な全身性免疫調節薬には,シクロスポリン,インターフェロン-γ,ミコフェノレート,メトトレキサート,アザチオプリンがある。
いずれの薬剤もT細胞の機能を抑制または阻害し,抗炎症作用をもつ。
これらの薬剤は,外用療法や光線療法で改善しなかった広範で難治性または身体障害を来すADに適応である。
疱疹状湿疹はアシクロビルで治療する。
乳幼児では10〜20mg/kgを8時間毎に静脈内投与する;軽症の年長児および成人では200mg,経口,1日5回投与を行う。
以上
ラベル:アトピー性皮膚炎