■T型糖尿病に対するインスリン投与法:
T型糖尿病に対する投与法は,1日2回の“混合型分割”法(例,超速効型インスリンと中間型インスリンの用量を分割)から,1日に複数回の注射を行うより生理的な“基礎-ボーラス”法(例,単回投与する固定[基礎]量の持続型インスリン,および食後[ボーラス]投与する様々な量の超速効型インスリン)に及ぶ。
強化療法は1日4回以上の血糖測定および1日3回以上のインスリン注射またはインスリン持続注入と定義され,従来の治療(血糖測定を併用または非併用で1日1〜2回インスリンを注射)よりも糖尿病性網膜症,腎症,神経障害を予防する効果が高い。
しかし,強化療法では低血糖および体重増加がより頻繁に起こりやすく,自己管理により積極的な役割を果たすことができ,それを望む患者においてのみ一般に有効である。
一般に,大半のT型糖尿病患者は0.2〜0.8単位/kg/日の総インスリン量から開始し,肥満患者はさらに高用量を必要とする場合がある。
生理的補充は,1日のインスリン量の40〜60%を中間型製剤または持続型製剤として投与して基礎必要量をまかない,残りを超速効型製剤または速効型製剤として投与して食後の必要量の増加を補う。
この方法は,超速効型インスリンまたは速効型インスリンの用量が食前血糖値,予定される食事内容,および血糖モニタリング結果を考慮したスライディングスケールによって決定されるときに最も有効となる;目標血糖値を50mg/dL(2.7mmol/L)上回るまたは下回る毎に,用量を1〜2単位調節する。
患者は食事を抜いたり食事時間をずらしても良好な血糖値を維持できるので,この生理的投与法は生活様式の自由度を高める。
しかし,他の投与法よりも有効性が高いと立証されている特異的なインスリン投与法はなく,これらの提案は治療開始時を対象とするものである;したがって,投与法の選択は一般に生理反応および患者や医師の嗜好に依存する。
■U型糖尿病に対するインスリン投与法:
U型糖尿病に対する投与法も多様である。
多くの患者は生活様式の変更または経口薬で十分にコントロールされるが,経口薬2剤以上を用いても血糖コントロールが不十分なときはインスリンを加えるべきである;妊娠女性では経口薬をインスリンに切り替えるべきである。
併用療法の最も強固な理論的根拠は,インスリンと経口ビグアナイド薬および インスリン 抵抗性改善薬との併用に関するものである。
投与法は,持続型インスリンまたは中間型インスリンの1日1回注射(通常は就寝時)からT型糖尿病患者に用いられる頻回注射法まで多様である。
一般に,最も簡便で有効な投与法が選択される。
インスリン抵抗性が存在するので,一部のU型糖尿病患者はきわめて大量のインスリンを必要とする(>2単位/kg/日)。
一般的な合併症は体重増加であり,この大部分は尿中へのブドウ糖排泄の低下および代謝効率の改善に起因する。
●経口血糖降下薬:
経口血糖降下薬はU型糖尿病の初期治療であるが, 2剤以上の経口薬でも十分な血糖コントロールが得られないときにはインスリンがしばしば追加される。
経口血糖降下薬は,膵臓のインスリン分泌を亢進させたり(分泌促進薬),末梢組織のインスリン感受性を増強させたり(抵抗性改善薬),消化管からのブドウ糖吸収を阻害したりする。
作用機序の異なる薬物は相乗的に働く場合がある。
●スルホニル尿素薬(SU薬)はインスリン分泌促進薬で,膵β細胞のインスリン分泌を刺激することで血糖値を低下させ,糖毒性を軽減することで末梢および肝臓のインスリン感受性を二次的に改善させると考えられる。
第1世代薬(糖尿病と炭水化物代謝異常症: 経口血糖降下薬の特徴表 4: 表を参照)は副作用が起こりやすく,ほとんど使用されない。
全てのSU薬は高インスリン血症および2〜5kgの体重増加を引き起こし,これはやがてインスリン抵抗性を増強してSU薬の有用性を制限する場合がある。
また,全てのSU薬は低血糖を引き起こす恐れがあり,危険因子には年齢65歳以上,長時間作用型の薬物の使用(特にクロルプロパミド,グリブリド,グリピジド),誤った食事および運動,腎不全または肝不全が含まれる。
長時間持続型の薬物による低血糖は治療中止後も数日間持続する可能性があり,ときに恒久的な神経障害を引き起こし,致死的となる恐れもある;
これらの理由から,一部の実地医家は低血糖患者,特に高齢者を入院させる。
●クロルプロパミドは抗利尿ホルモン分泌異常症候群も引き起こす。
SU薬のみを使用する患者の大半では,正常血糖に到達するために最終的に薬物の追加が必要になり,これはSU薬がβ細胞機能を疲弊させる可能性を示唆している。
しかし,インスリン分泌およびインスリン抵抗性の増悪は,糖尿病治療に使用された薬物の特性というよりは恐らく糖尿病自体の特性である。
●速効型インスリン分泌促進薬(レパグリニド,ナテグリニド)は,SU薬と類似の様式でインスリン分泌を刺激する。
しかし,速効型インスリン分泌促進薬では短時間で作用が発現し,食事中にそれ以外の時間よりも強くインスリン分泌が刺激される。
したがって,食後高血糖の軽減に特に有効で,低血糖のリスクも低いと考えられる。
SU薬と同様に,体重増加を引き起こしうる。
レパグリニドはSU薬またはメトホルミンと同程度の血糖降下作用を示すと考えられる;
ナテグリニドはやや有効性が低く,したがって軽度高血糖患者により適していると考えられる。
他の種類の経口薬(例,SU薬,メトホルミン)に反応しなかった患者が速効型インスリン分泌促進薬に反応する可能性は低い。
●ビグアナイド薬は肝臓でのブドウ糖産生(糖新生およびグリコーゲン分解)を減少させることによって血糖値を低下させる。
ビグアナイド薬は末梢インスリン抵抗性改善薬とみなされるが,ビグアナイド薬による末梢でのブドウ糖取り込み刺激は,単純に肝臓に対する効果に起因するブドウ糖減少の結果であると考えられる。
ビグアナイド薬は脂質を低下させ,さらに消化管からの栄養吸収も減少させたり,循環血液中のブドウ糖に対するβ細胞の感受性を亢進させたり,プラスミノーゲン活性化因子インヒビター1の濃度を低下させて抗血栓作用を発揮したりする可能性もある。
●メトホルミンは米国で市販されている唯一のビグアナイド薬である。
メトホルミンは少なくともSU薬と同等の血糖降下作用を示し,低血糖を引き起こすことはまれで,他の薬物やインスリンとも安全に併用できる。
さらに,メトホルミンは体重を増加させず,食欲を抑制することによって体重減少を促進する可能性さえある。
メトホルミンは一般的に消化管の副作用(例,消化不良,下痢)を引き起こすが,大半の場合は時間とともに消失する。
頻度は低いものの,メトホルミンはビタミンB12吸収不良をもたらすが,臨床的に有意な貧血はまれである。
メトホルミンが生命を脅かす乳酸アシドーシスの一因となるかについては議論が続いているが,酸血症のリスクを有する患者(腎不全[クレアチニン1.4mg/dL以上],心不全,低酸素症または重度呼吸器疾患,アルコール中毒,その他の代謝性アシドーシス,脱水のある患者を含む)では禁忌と考えられている。
メトホルミンは,手術,造影剤の静注,および重篤な疾患の際には使用を控えるべきである。
メトホルミン単剤療法が行われている患者の多くでは最終的に薬物の追加が必要になる。
●チアゾリジン類(TZD)は末梢インスリン抵抗性を低下させるが(インスリン抵抗性改善薬),特異的な作用機序については十分に解明されていない。
チアゾリジン類は,主として脂肪細胞に存在し糖代謝および脂質代謝を制御する遺伝子の転写に関与する核内受容体(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体γ[PPARγ])に結合する。
また,TZDはHDL濃度を上昇させてトリグリセリド値を低下させ,抗炎症作用および抗アテローム性動脈硬化作用を有する可能性もある。
TZDはSU薬やメトホルミンと同等のHbA1c低下効果を示す。この種の薬物は比較的新しいので,長期の安全性および有効性に関するデータは得られていない。
TZDの1つ(トログリタゾン)は急性肝不全を引き起こしたものの,現在市販されているTZDでは肝毒性は立証されていない;しかし,肝機能の定期的なモニタリングが推奨される。
TZDは,特にインスリン使用中の患者で末梢浮腫を引き起こす可能性があり,感受性の高い患者では心不全を悪化させる恐れがある。
脂肪組織量の増加による体重増加が一般的にみられ,一部の患者ではそれがかなりの程度(>10kg)となることもある。
●αグルコシダーゼ阻害薬(AGI)は食物中の炭水化物を加水分解する腸管の酵素を競合的に阻害する;炭水化物はより緩徐に消化,吸収され,したがって食後血糖値が低下する。
AGIの血糖降下作用は他の経口薬よりも弱く,消化不良,鼓腸,下痢が生じることがあるので患者はしばしば薬物を中止する。
しかし,それ以外の点ではAGIは安全であり,他の全ての経口薬およびインスリンと併用可能である。
グルカゴン様ペプチド-1(GLP-1)(例,エクセナチド[インクレチンホルモン])はブドウ糖依存性のインスリン分泌を増強し,胃内容排出を緩徐にする。
また,エクセナチドは食欲を低下させ,体重減少を促す。
エクセナチドは1日2回食前に注射し,経口血糖降下薬と併用できる。
内因性GLP-1の利用率を上昇させる別の薬物も開発中である。
以上