『片頭痛』の概略、病態生理、症状、診断、治療、予後について述べよ
●片頭痛
片頭痛は慢性で発作性の一次性頭痛である。
症状は典型例では4〜72時間持続し,重症例もある。
痛みは常にではないものの,しばしば一側性,拍動性で,労作により増悪し,自律神経症状(例,悪心,光・音・匂いに対する過敏)を伴う。
少数の患者で,通常は頭痛の直前に,閃輝暗点など一過性の局所神経障害が起こる。
診断は臨床的に行う。
治療はセロトニン1B/1D受容体作動薬,制吐薬,鎮痛薬を用いる。
予防的措置としては,生活習慣改善(例,睡眠習慣や食生活)および薬物療法(例,β遮断薬,アミトリプチリン,バルプロ酸,トピラメート)がある。
●疫学と病態生理
片頭痛は反復性の中〜重度の頭痛の原因として最も一般的で,米国における生涯有病率は女性で18%,男性で6%である。
思春期または若年成人期における発症が最も一般的で,その後何年にもわたり一進一退を繰り返し,通常50歳以降で消失する。
研究によると片頭痛には家族集積性が認められる。
片頭痛は,中枢神経処理の異常(脳幹核活性,皮質性過剰興奮,拡延性皮質性抑制)および三叉神経血管系の関与(神経ペプチド放出の誘発により,頭蓋内血管および硬膜の疼痛性炎症を引き起こす)を伴う神経血管性の疼痛症候群と考えられている。
特異的発作の誘発機序はしばしば不明である。
しかしながら,片頭痛の潜在的な誘因が多数特定されている;赤ワイン摂取,食事抜き,過剰な求心性刺激(例,点滅光,強い匂い),天候の変化,睡眠遮断,ストレス,ホルモン因子などである。
頭部外傷,頸部痛,顎関節機能不全が,片頭痛を誘発または増悪させることがある。
エストロゲンレベルの変動は片頭痛の強力な誘因である。
多くの女性が初潮時に片頭痛を発症し,月経時に重度の発作を経験し(月経時片頭痛),閉経後増悪する。
ほとんどの女性は,妊娠期に片頭痛が寛解する(しかしときに,妊娠の第1トライメスターまたは第2トライメスターで増悪がみられる)。
経口避妊薬およびその他のホルモン療法は片頭痛を誘発または増悪させることがあり,前兆のある片頭痛を抱える女性の脳卒中との関連が示されている。
●症状と徴候
一部の患者で,片頭痛発作に先行する,または発作に伴う神経症状の前兆(前駆症状)がみられ,数分から1時間持続する(前兆のある片頭痛)。
最も一般的な前兆は視覚症状(閃輝暗点;例,両眼性閃光,閃輝の弧,ジグザグの光,暗点)である。
感覚異常およびしびれ(典型的には片手から始まり同側の腕と顔面に進展),言語障害,一過性の脳幹・視床機能障害は,視覚症状ほど一般的ではない。
一部の患者には,頭痛をほとんど,または全く伴わない片頭痛前兆の発作がみられる。
痛みは中等度から重度までと様々で,発作は数時間から数日持続し,典型的には睡眠により寛解する。
痛みは両側性または片側性で,最好発部位は前頭側頭部であり,うずくような,締めつけられるような,ときにはずきずきするなどと形容される。
片頭痛の症状は頭痛に限らない。悪心(ときに嘔吐を伴う),羞明,音過敏,匂い過敏などの自律神経症状が顕著にみられる。
患者は発作中,集中力の欠如を訴える。
片頭痛は通常,日常的な身体活動により増悪し,羞明および音過敏を伴うため,患者の大多数は発作中,暗く静かな部屋に横になりたがる。
重度の発作は家庭生活や仕事を妨げるほど耐え難いものでありうる。
発作の頻度および重症度は著しく異なる。
多くの患者には,悪心や羞明を伴わない軽度の発作を含め数種類の頭痛がみられ,緊張性頭痛に似た発作がみられることもある。
片頭痛の中でも脳底動脈片頭痛はまれで,めまい,運動失調,視野欠損,感覚障害,局所の筋力低下,意識水準の変化といった症状の組み合わせを伴う。
腹性片頭痛(周期性症候群)は片頭痛の家族歴のある小児に発症し,2時間持続する腹痛発作,潮紅または蒼白,悪心,嘔吐が特徴である。
小児期の周期性症候群は典型的には,後年になりしばしば片頭痛に移行する。
●診断
診断は,特徴的な症状および身体診察(神経学的診察を含む)の所見が正常であることに基づく。
懸念すべき所見(頭痛: 検査を参照 )を伴わない典型例には中枢神経系画像診断は必要ない。
一般的な診断ミスは,片頭痛がしばしば両側性疼痛を伴うことや,必ずしもずきずきする痛みと形容されるとは限らないことに対する認識不足に起因する。
片頭痛の自律神経症状および視覚症状はしばしば,洞性頭痛や眼精疲労との誤診を招く。
片頭痛患者の頭痛が全て片頭痛発作であるという思い込みは危険な誤りである。
雷鳴頭痛,またはこれまでの頭痛パターンの変化は,新たな重篤疾患を示唆することがある。
高齢の患者では,前兆がある片頭痛は,特に前兆が頭痛を伴わずに起こる場合に,一過性脳虚血発作と誤診されることがある。
若年の患者では,前兆がある片頭痛に類似しうる特異な疾患がいくつかみられる:頸動脈または椎骨動脈解離,抗リン脂質抗体症候群,脳血管炎,もやもや病,CADASIL(カダシル:皮質下梗塞および白質脳症を伴った常染色体優性脳動脈症),MELAS症候群(ミトコンドリア脳筋症,乳酸アシドーシス,脳卒中様エピソード)などである。
●予後と治療
一部の患者にとって,片頭痛は,頻度が低く,不都合ではあるものの許容できる疾患である。
その他の患者にとっては,無能力,生産性の喪失,生活の質の著しい低下を一定期間,頻繁にもたらす深刻な疾患である。
そのため,治療は発作の頻度,持続時間,重症度に基づき層別化される。
疾患について十分に説明することで,片頭痛は完治はしないがコントロール可能であることを患者が理解し,治療に積極的に参加するように促すことができる。
発作回数,タイミング,可能性のある誘因および治療に対する反応を頭痛日誌に記録するよう患者に促す。
特定された誘因は可能な限り除去する。行動療法(バイオフィードバック,ストレス管理,精神療法)は,ストレスが主要な誘因である場合や鎮痛薬が過剰使用されている場合に用いられる。
急性片頭痛: 軽度〜中等度の発作はNSAIDまたはアセトアミノフェンにより対応する。
オピオイド,カフェイン,ブタルビタールを含む鎮痛薬は頻度の低い軽度の発作に有効であるが,過剰使用される傾向があり,反跳頭痛や連日性頭痛症候群を招くことがある。
軽度の発作がしばしば動けないほどの片頭痛に進展する患者や,発作開始から重度である患者には,トリプタン系薬が使用される。
トリプタン系薬は選択的セロトニン1B/1D受容体作動薬である。
トリプタン系薬は鎮痛薬そのものではないが,片頭痛の痛みを誘発する血管作動性神経ペプチドの放出を特異的に遮断する。
トリプタン系薬は発作開始時に服用すると最も有効である。
使用可能な投与形態としては経口,経鼻腔,皮下注(頭痛: 片頭痛および群発頭痛に対する薬物表 2: 表参照)があり,皮下注の効果が比較的高いが副作用も強い。
悪心が顕著である場合,発作開始時にトリプタンと制吐薬を併用すると効果的である。
ジヒドロエルゴタミン静注とドパミン拮抗性制吐薬の併用(例,メトクロプラミド10mg,静注,プロクロルペラジン5〜10mg,静注)は非常に重度の持続性発作を中断するのに有効である。
軽度な発作であれば制吐薬のみで軽減することがある。
トリプタン系薬およびジヒドロエルゴタミンは冠動脈狭窄の原因となりうるため,冠動脈疾患またはコントロール不良の高血圧の患者には禁忌であり,また高齢者や血管危険因子を有する患者には慎重に使用しなくてはならない。
ジヒドロエルゴタミンまたはトリプタン系薬はクモ膜下出血やその他の器質的異常による頭痛を軽減することがあるため,これらの薬物への反応が良好であっても片頭痛が診断的であると判断すべきではない。
オピオイドは,重度の頭痛に対し他に有効策がない場合の最後の手段(レスキュー薬)とすべきである。
●予防
急性治療にもかかわらず頻繁な片頭痛により活動が阻害される場合,日常的な予防療法が必要となる。
頻繁に鎮痛薬を使用する患者,特に反跳頭痛のある患者は,予防薬(頭痛: 片頭痛および群発頭痛に対する薬物表 2: 表参照)と並行して,鎮痛薬の過剰使用を止めるためのプログラムを実施すべきである。
薬物の選択は合併症により決定しうる:例えば,抑うつや不眠症を有する患者には就寝時に低用量のアミトリプチリン;高血圧や冠動脈疾患を有する患者にはβ遮断薬;肥満の患者には減量に有効なトピラメートなどである。
他の予防的治療に反応しない患者に少量のボツリヌス毒素を周期的に頭皮注射すると片頭痛発作の回数と重症度が軽減する場合がある。