2014年08月10日

クローン病について(限局性腸炎;肉芽腫性回腸炎または回結腸炎)

クローン病は,通常回腸末端と結腸を侵すが,消化管のいかなる部位にも発生しうる慢性全層性炎症性疾患である。

症状には下痢および腹痛などがある。

膿瘍,内瘻孔,外瘻孔および腸閉塞が起こることがある。

腸管外症状,特に関節炎が起こることがある。


診断は大腸内視鏡検査およびバリウム造影検査による。

治療は,5-ASA,コルチコステロイド,免疫調節薬,抗サイトカイン薬,抗生物質,しばしば手術による。




●病態生理

疾患は陰窩炎および陰窩膿瘍として発症し,小さな巣状のアフタ様潰瘍に進行する。

これらの粘膜病変は,特徴的な敷石状外観を呈する,潰瘍間の粘膜浮腫を伴う深い縦横の潰瘍へと進展することがある。



炎症が腸壁全層に及ぶと,リンパ水腫ならびに腸壁および腸間膜の肥厚が起こる。

腸間膜の脂肪は典型的に腸の漿膜表面に広がる。腸間膜リンパ節がしばしば腫大する。

広範な炎症により,筋肉の肥厚,繊維化,および狭窄形成が生じることがあり,これらが腸閉塞を引き起こしうる。


膿瘍は一般的にみられ,瘻孔はしばしば腸壁を貫通して他の腸係蹄,膀胱,または腰筋などの隣接構造に達する;瘻孔は前腹部または側腹部の皮膚にまで及ぶことさえある。


腹腔内疾患の活動性とは無関係に,肛門周囲の瘻孔および膿瘍が症例の4分の1から3分の1に起こる;これらの合併症はしばしば,クローン病の最も厄介な側面である。



非乾酪性肉芽腫はリンパ節,腹膜,肝臓,および腸壁全層に起こりうる。

肉芽腫は,存在すれば,クローン病に特徴的な所見であるが,クローン病患者の50%にみられない。

それらの存在は臨床経過には関連していないようである。


腸の病変部は,隣接する正常の腸(“スキップエリア”)とはっきり区別され,これが限局性腸炎という名のゆえんである。

クローン病の約35%の症例は,病変が回腸に限局している(回腸炎);約45%は回腸と結腸に炎症が生じ(回結腸炎),右側結腸に好発する;約20%は結腸に限局しているが(肉芽腫性大腸炎),そのほとんどが潰瘍性大腸炎(UC)と異なり,直腸は侵されない。

時に小腸全体が侵される(空回腸炎)。

まれに,胃,十二指腸,または食道が侵される。

この疾患は通常,外科的介入を行わない限り,初期診断時に侵されていない小腸の部分に及ぶことはない。



小腸の病変部では,癌のリスク増大が認められる。

大腸病変を有する患者は結腸直腸癌の長期リスクがあり,このリスクは罹患範囲および罹病期間が同じであると仮定すると,UC患者のリスクと同等である。




●症状と徴候

最も一般的な初発症状は腹痛,発熱,食欲不振,および体重減少を伴う慢性の下痢である。

腹部には圧痛があり,腫瘤または膨満を触知することがある。

肉眼的直腸出血は大腸の孤立性病変の場合を除いてまれであり,この病変はUCに似た症状を示すことがある。

一部の患者は,急性虫垂炎または腸閉塞と似た急性腹症を呈する。

約3分の1の患者に肛門周囲病変(特に裂溝と瘻孔)が認められ,それは時に最も顕著または最初の訴えでさえある。



小児では,腸管外発現がしばしば胃腸症状よりも多い;関節炎,原因不明熱,貧血,または成長遅延が認められることがあり,腹痛や下痢はないことがある。


再発病変では,症状は様々である。

痛みは最も一般的で,単純な再発および膿瘍形成のいずれでも起こる。

重度の急性増悪または膿瘍患者では,著明な圧痛,筋性防御,反跳痛,および全身中毒症状を認める可能性が高い。

狭窄部位では,腸閉塞が起こることがあり,疝痛,膨満,便秘,および嘔吐が起こる。

既往手術による癒着も腸閉塞を引き起こすことがあり,これはクローン病の急性増悪による閉塞に特有の前駆症状(発熱,疼痛,および倦怠感)を伴わずに急激に発症する。

腸管膀胱瘻によって尿中に気泡(気尿)が出現することがある。皮膚に排泄する瘻孔を認めることがある。腹腔内への遊離穿孔はまれである。



慢性疾患は,発熱,体重減少,栄養失調,および腸管外発現(炎症性腸疾患を参照 )などの様々な全身症状を引き起こす。

“ウィーン分類”はクローン病を主な3型に分類している:(1)主に炎症性で,一般に数年後に,(2)主に狭窄性もしくは閉塞性,または(3)主に穿孔性もしくは瘻孔性のいずれかになる。

これらの異なった臨床型により異なった治療法が決まる。

いくつかの遺伝的研究が,この分類の分子基盤を示唆している。




●診断

炎症性または閉塞性症状のある患者や,顕著な胃腸症状はないが,肛門周囲の瘻孔や膿瘍,または他には説明のつかない関節炎,結節性紅斑,発熱,貧血,もしくは(小児における)発育不全のある患者については,クローン病を疑うべきである。

クローン病の家族歴がある患者も疑いが強い。


同様の徴候および症状(例,腹痛,下痢)が他の消化器疾患によって引き起こされることがある。

クローン病が大腸に限局している20%の症例では,UCとの鑑別が困難なことがある。

しかしながら,治療は類似しているので,この鑑別は,手術または実験的治療を検討する場合に限り重要な意味をもつ。




急性腹症を呈している患者(初発または再発のいずれか)には臥位および立位腹部X線ならびに腹部CTスキャンを行うべきである。

これらの検査は閉塞,膿瘍または瘻孔,および急性腹症の他の考えられる原因(例,虫垂炎)を証明する。

超音波検査は,下腹部痛および骨盤痛のある女性における婦人科的病変の描出に優れていることがある。



初発症状が急性でなければ,CTよりも小腸のフオロースルーを伴う上部消化管造影および回腸末端のスポット撮影が望ましい。

上部消化管造影で,狭窄(“ストリングサイン”描出による),瘻孔,または腸係蹄の分離が証明されれば診断となる。

所見が疑わしい場合には,高位浣腸法またはビデオカプセル小腸鏡で表在性のアフタ性潰瘍および線状潰瘍を認めることがある。

症状が主に結腸の症状のようにみえる場合には(例,下痢),バリウム注腸X線検査を実施してもよく,この検査で回腸末端へのバリウム逆流,ならびに不整,小結節形成,硬直,壁肥厚,および内腔狭窄を認めることがある。

同様のX線所見が,盲腸癌,回腸カルチノイド,リンパ肉腫,全身性血管炎,放射性腸炎,回盲部結核,およびアメーバ腫においてみられる。




非定型例(例,主として下痢,わずかな痛みを伴う)においては,評価はUCが疑われる場合と同様で,大腸内視鏡検査による(生検,腸内病原菌のためのサンプリング,および,可能であれば,回腸末端の観察を含む)。

上部消化管症状がない場合でも,上部消化管内視鏡検査で胃十二指腸の病変が同定されることがある。



貧血,低アルブミン血症,および電解質異常をスクリーニングするため,臨床検査を行うべきである。

肝機能検査を行うべきである;アルカリホスファターゼおよびγグルタミルトランスペプチターゼ値の上昇は,原発性硬化性胆管炎の可能性を示唆する。

白血球増加または急性期反応物質(例,赤血球沈降速度,C反応性蛋白)の値の上昇は非特異的であるが,疾患の活動性をモニタリングするために連続的に用いてもよい。


核周囲抗好中球細胞質抗体(P-ANCA)はUC患者の60〜70%において認められるが,クローン病患者では5〜20%に過ぎない。

抗サッカロミセス-セレヴィシア抗体はクローン病に比較的特異的である。

しかしながら,これらの検査では2つの疾患は確実に鑑別されない。

それらは“中間型大腸炎”症例においては有用性が不明で,ルーチンの診断法として推奨されない。





●予後

確定したクローン病は,間欠性の再燃および寛解を特徴とし,治癒することはまれである。

衰弱させるような激しい疼痛が頻繁に起こる重度の疾患に苦しむ患者もいる。

しかしながら,賢明な薬物療法,適切な場合には外科的治療によって,大部分の患者が機能を保ち,うまく順応する。疾患に関連する死亡率は非常に低い。

クローン病に関連する死亡の主因は,結腸および小腸癌などの消化管癌である。




●治療


一般的な管理: 痙攣および下痢は,ロペラミド2〜4mg,最大1日4回(食前が理想的),経口投与によって軽減することがある。

こうした対症療法は安全であるが,重度の急性クローン結腸炎の場合には,UCと同様に中毒性巨大結腸症に進行することがある。

親水性粘漿薬(例,メチルセルロースまたはオオバコ製剤)は,時に便硬度上昇による肛門刺激の予防に有用である。

狭窄性疾患や活動期の結腸炎では食物繊維を避けるべきである。



軽度から中等度の疾患: このカテゴリーには,経口摂取でき,毒性,圧痛,腫瘤,閉塞の徴候がない外来患者が含まれる。

5-アミノサリチル酸(5-ASA,メサラミン)は第1選択薬として一般に使用されるが,小腸疾患に対する効果はそれほど大きくない。


ペンタサは回腸末端よりも近位の疾患に最も有効な製剤である;アサコールは遠位回腸の疾患に有効である;クローン結腸炎に対する効果はどの製剤もほぼ同等であるが,同じ用量で比較した場合,スルファサラジンより新しいどの製剤もスルファサラジンほど有効ではない。


抗生物質は一部の臨床医には第1選択薬と考えられているが,4週間の5-ASAに反応しない患者にのみ使用されることもある;それらの使用は全く経験的である。

これらのどの薬物による治療でも,8〜16週間を要することがある。



奏効患者は維持療法に切り替える。

中等度から重度の疾患: 瘻孔や膿瘍はないが,著明な疼痛,圧痛,発熱,もしくは嘔吐のある患者,または軽度の疾患に対する治療に反応しなかった患者は,症状の重症度および嘔吐の回数にもよるが,経口または非経口のコルチコステロイドを必要とする。

経口プレドニゾンまたはプレドニゾロンは,経口ブデソニドよりも迅速かつ確実に作用しうるが,副作用は後者の方が若干少ない。


コルチコステロイドに反応しない患者または漸減できない患者に,アザチオプリン,6-メルカプトプリン,または場合によってはメトトレキサートを投与すべきである。

インフリキシマブはコルチコステロイド投与後の第2選択薬として選ばれることがあるが,活動性感染症には禁忌である。



癒着によるものであろうとクローン病によるものであろうと,閉塞は最初に経鼻胃管吸引,静脈内輸液,および時に経静脈栄養によって管理する。

合併症のないクローン病による閉塞は数日以内に消失する;速やかな効果が認められない場合は,合併症または別の病因が示唆され,直ちに手術を行う必要がある。



劇症疾患または膿瘍: 中毒症状,高熱,持続性嘔吐,反跳痛,圧痛のある腫瘤,または触知できる腫瘤のある患者については,静脈内輸液および抗生物質投与のために入院させる必要がある。

膿瘍に対して経皮的または外科的ドレナージを行う必要がある。

静注コルチコステロイドは,感染が除外されている場合またはコントロールされている場合に限り投与すべきである。

5〜7日の間にコルチコステロイドに対する反応が認められない場合には,通常,外科手術の適応となる。




瘻孔: 瘻孔は,最初はメトロニダゾールおよびシプロフロキサシンで治療する。

3〜4週間のうちに反応しない患者には,より迅速な反応のために,免疫調節薬(例,アザチオプリン,6-メルカプトプリン)を投与することがあり,場合によってはインフリキシマブを用いた寛解導入療法を併用する。

シクロスポリンは代替薬であるが,治療後,瘻孔がしばしば再発する。

重度の難治性肛門周囲瘻孔は,一時的人工肛門造設術を必要とすることがあるが,再吻合後,ほぼ必ず再発する;したがって,人工肛門造設術は主要な治療ではなく根治手術の補助と考えるのが適切である。



維持療法: 寛解を得るために5-ASAだけが必要な患者は,同薬物で維持できる。

コルチコステロイドまたはインフリキシマブによる急性治療を必要とする患者は,一般に,寛解を維持するためにアザチオプリン,6-メルカプトプリン,またはメトトレキセートが必要である。

コルチコステロイドは,長期維持療法として安全でもなく有効でもない。

急性疾患に対してインフリキシマブが有効であるが,代謝拮抗薬で良好に維持されない患者は,インフリキシマブ5〜10mg/kgを8週間間隔で反復投与することによって寛解を維持することがある。

寛解期のモニタリングは,症状および血液検査によって行うことができ,発症から7年以降はX線や大腸内視鏡検査(年1回の異形成のルーチンサーベイランス以外)を必要としない。



手術: 約70%の患者が最終的に手術を必要とするが,手術は常にしぶしぶ行われる。

手術は,再発性腸閉塞,難治性瘻孔,または難治性膿瘍がある場合にのみ行うのが最もよい。

臨床的に明らかな全ての病変を切除した後も再発する可能性が高いので,腸病変の切除によって症状は改善しうるがクローン病が治癒することはない。

吻合部の内視鏡的病変によって定義される再発率は,1年で70%以上,3年で85%以上である;臨床症状によって定義される再発率は,3年で約25〜30%,5年で40〜50%である。

最終的には50%近くの症例で再手術が必要となる。

しかしながら,再発率は6-メルカプトプリン,メトロニダゾール,または場合によっては5-ASAの術後早期予防投与で低下するようである。

適切な適応症に対して手術を施行した場合,ほぼ全ての患者において生活の質の向上がみられる。



以上


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posted by ホーライ at 01:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 炎症性疾患 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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