診断は臨床的に行う。
独特の安静時振戦,運動の減少,または固縮を示す患者の場合には,パーキンソン病が疑われる。
パーキンソン病による運動緩慢と,皮質脊髄路の病変による運動減少および痙縮との鑑別が必要である。
パーキンソン病とは異なり,皮質脊髄路の病変では,特に遠位の抗重力筋の不全麻痺(筋力低下または麻痺)が生じ,また伸展性足底反応(バビンスキー徴候)が生じる。
皮質脊髄路の病変による痙縮では,筋緊張および深部腱反射が亢進する;筋緊張は,筋に加えられる伸張の割合および程度に比例して亢進するが,突如抵抗が失われる(折り畳みナイフ現象)。
その他特徴的な徴候(例,瞬きの頻度の減少,無表情,姿勢反射障害,独特の歩行異常)の存在により,診断が確定する。
他に特徴的な徴候のない振戦は,疾患初期または別の診断を示唆している。
高齢者では,抑うつまたは認知症により自発的運動の減少や小刻みな(リウマチ様)歩行が生じることがあり,こうした症例はパーキンソン病との鑑別が難しい場合がある。
主に病歴聴取と神経画像診断検査により,原因の同定が可能である。
病歴聴取には,頭部外傷,脳卒中,水頭症,薬物および毒素への暴露,他の神経変性疾患の症状または既往に関する質問を含めるべきである。
●パーキンソン病の治療
薬物:
従来,レボドパは最初に用いられる薬物である。
しかしながら,専門家の中には,早期レボドパ治療が副作用の出現および投薬の無効を早めることになると考える人々もいる;彼らは可能な限りレボドパを控え,最初は抗コリン薬,アマンタジン,またはドパミン作動薬を用いる方を好む。
レボドパはドパミンの代謝前駆物質で,脳血流関門を通過して基底核に入り,そこで脱炭酸化されてドパミンを形成する。
末梢性脱炭酸酵素阻害薬であるカルビドパとの併用はレボドパの異化を阻止し,それによりレボドパの必要量が抑えられ,副作用も最小限に抑えられる。
レボドパは,運動緩慢および固縮の軽減に最も効果があるが,振戦もしばしば大きく軽減する。
レボドパを投与した軽症例がほぼ正常に復し,また寝たきりの患者では歩行が可能になることもある。
レボドパの中枢性副作用には,悪夢,起立性低血圧,嗜眠,ジスキネジアなどがあり,特に高齢者や認知症患者では,ときおり幻覚や中毒性せん妄がみられる。
末梢性副作用には,悪心,嘔吐,潮紅,腹部の有痛性けいれん,動悸などがある。
治療が長くなるにつれ,次第に少量でジスキネジアを生じるようになる。
一部の患者では,パーキンソン症状を低減するための最低量を投与してもジスキネジアが生じる。
カルビドパ/レボドパは,10/100,25/100,25/250mg錠,さらに放出制御製剤では50/200mg錠の固定比の錠剤がある。
治療は25/100mg錠1錠を1日3回投与することから始める。
投与量は,忍容性を見ながら最大薬効に達するまで4〜7日毎に増量する。
用量を徐々に増やし,食事とともに,または食後に服用することで,副作用は最小限に抑えられる(ただし,高蛋白食はレボドパの吸収を阻害することがある)。
末梢性の副作用が著しい場合には,カルビドパの増量が有益なことがある。
大部分のパーキンソン病患者には,レボドパ400〜1000mg/日を2〜5時間毎に分割投与することが必要である。
一部の患者では最大2000mg/日を必要とする。
ときには,レボドパによる幻覚または中毒性せん妄があっても,運動機能維持のためにレボドパを投与せざるをえないことがある。
精神病は経口クエチアピンまたはクロザピンにより治療可能な場合もある;これらの薬は他の抗精神病薬(例,リスペリドン,オランザピン)に比べ,パーキンソン症状の悪化がはるかに少なく,全く悪化しないこともある。
ハロペリドールは避けるべきである。
クエチアピンは25mg,1日1〜2回から始めて,忍容性を見ながら最大800mg/日まで,1〜3日毎に25mgずつ増量する。
クロザピンは,患者の1%に無顆粒球症が生じるため,使用が限られる。
クロザピンを使用する際の用量は,12.5〜50mg,1日1回から12.5〜25mg,1日2回までとする;最初6カ月間は週1回,その後は2週間毎にCBCを実施する。
2〜5年治療すると,大部分の患者でレボドパの効果に変動がみられるようになる(オン-オフ効果)。
ジスキネジアおよびオン-オフ効果がレボドパ療法によるものか,基礎疾患によるものかについては異論がある。
最終的には,毎回投与後の改善期間が短くなり,薬物誘発性のジスキネジアにより,強度の無動から制御不能な多動へと症状の変動が生じるようになる。
従来,こうした変動には,レボドパをできる限り低用量に抑え,投与間隔を1〜2時間毎と短くすることで対処している。
これに代わる方法として,ドパミン作動薬の補助的投与,カルビドパ/レボドパ放出制御製剤,セレギリンなどがある。
アマンタジン100mg,経口にて1日1〜3回の投与は,早期の軽度パーキンソン症候群の単剤療法として50%の患者に有用であり,その後はレボドパの効果を増強するのに用いてもよい。
アマンタジンは,ドパミン系の活動,抗コリン作用,またはその両方を増強する。
単剤療法として用いた場合,アマンタジンの有効性は数カ月で失われることがしばしばある。
アマンタジンは,抗精神病薬投与に伴うパーキンソン病を軽減することもある。
副作用として下肢の浮腫,網状皮斑,錯乱がある。
ドパミン作動薬は,基底核のドパミン受容体を直接活性化する。
薬物(いずれも経口)としては,ブロモクリプチン1.25〜50mg,1日2回,ペルゴリド0.05mg,1日1回から1.5mg,1日3回まで,ロピニロール0.25〜8mg,1日3回,プラミペキソール0.125〜1.5mg,1日3回などがある。
単剤療法も可能だが,その場合,数年以上にわたって十分な効果を上げることはまれである。
ドパミン作動薬は疾患のあらゆる段階に有用である。治療初期にこれらの薬を少量のレボドパと併用すると,ジスキネジアおよびオン-オフ効果の出現を遅らせることができるが,おそらくこれは,レボドパよりもドパミン作動薬の方が長くドパミン受容体を刺激するためであろう。
ドパミン作動薬による刺激はより生理的で,受容体をよりよく温存する。
ドパミン作動薬は,レボドパの効果が減弱し,オン-オフ効果が著明になる遠隔期に特に有用である。
ドパミン作動薬の使用は副作用(例,鎮静,悪心,起立性低血圧,錯乱,せん妄,精神病)による制約を受ける。
ドパミン作動薬の副作用はレボドパを減量することで最小限に抑えることが可能である。
まれに,ペルゴリドにより胸膜,後腹膜,または心臓弁の線維症が生じることがある。
選択的B型モノアミン酸化酵素阻害薬(MAO-B)であるセレギリンは,脳内のドパミンを分解する2大酵素の1つを阻害し,それによりレボドパ1回量の作用を延長させる。
軽度のオン-オフ効果が認められる一部の患者では,セレギリンはレボドパの効果を延長するのに役立つ。
最初にセレギリンを単独で用いると,レボドパの導入を約1年遅らせることができる。
セレギリンは,疾患初期の脳内に残存するドパミンの作用を高め,あるいは脳内ドパミンの酸化代謝を抑制することで,パーキンソン病の進行を遅らせることができる。
5mgを経口にて1日2回投与しても,A型およびB型アイソザイムを遮断する非選択的MAO阻害薬に多い高血圧クリーゼ(チラミンを含有するチーズを食べると起こる)を生じることはない。
事実上,セレギリンに副作用はないが,レボドパによるジスキネジア,精神的・精神医学的副作用,悪心を悪化させる可能性があるため,レボドパの減量が必要である。
ラサジリンはアンフェタミンへ代謝されない新しいMAO-B阻害薬で,疾患初期にも遠隔期にも有効であり,忍容性も良好なようである。
ラサジリンの効果が純粋に対症的なものか,それとも神経保護効果も併せ持つのかは,今のところ不明である。
抗コリン薬は疾患初期に単剤療法として,その後はレボドパの補助薬として用いられる。
一般的に用いられる抗コリン薬として,ベンズトロピンであれば,経口にて夜0.5mg服用から2mg,1日3回までの服用,トリヘキシフェニジルであれば2〜5mg,経口にて1日3回の服用とする。
振戦の治療には,抗コリン作用を持つ抗ヒスタミン薬(例,ジフェンヒドラミン25〜50mg,経口にて1日2〜4回,オルフェナドリン50mg,経口にて1日1〜4回)が有用である。
抗コリン薬(例,ベンズトロピン)は,抗精神病薬投与に伴うパーキンソン病の症状を軽減する。
抗コリン作用を有する三環系抗うつ薬(例,アミトリプチリン10〜150mg,経口にて就寝時服用)は,レボドパの補助薬として,抑うつの治療に有用な場合がある。
抗コリン薬の増量はごく緩徐に行う。
副作用には,口渇,尿閉,便秘,眼のかすみがあり,高齢者では,錯乱,せん妄,および発汗減少による体温調節不全が特に厄介な副作用となる。
カテコールO-メチルトランスフェラーゼ(COMT)阻害薬(例,エンタカポン,トルカポン)はドパミンの分解を阻害するため,レボドパの補助薬として有用であると思われる。
レボドパ,カルビドパ,およびエンタカポンの併用も行われる。
レボドパ1回につきエンタカポン200mgとし,1日のレボドパ投与回数分を経口にて1日1回,最大1600mg/日まで投与する(例,レボドパが1日5回であれば,エンタカポン1gを1日1回投与する)。
肝毒性があるため,トルカポンの使用はまれである。
(続く)
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