患者が4時間以内に基準値まで回復しなければ,一般に入院が必要となる。
入院基準は様々であるが,明らかに入院が適応となるのは,改善しない,疲労が増強する,繰り返しβ動薬を投与した後も再発する,Pao2の有意な低下(50mmHg未満)またはPaCO2の増加(40mmHg以上),など呼吸不全への進行を示す場合である。
積極的な治療にもかかわらず悪化し続ける患者は,非侵襲的陽圧換気の候補者となるか,重度の患者および反応のない患者の場合は,気管挿管および機械的人工換気が適応となる。
挿管を必要とする患者には鎮静が有益なこともあるが,麻痺性薬物はコルチコステロイドとの相互作用の可能性があり,遷延する神経筋脱力を起こしうるため避けるべきである。
気道抵抗が高く,変化する場合には,一定の肺胞換気を得るために,通常は補助・調節モードでの容量サイクル式の換気を行う。
呼気を延長し,自己PEEP(呼気終末陽圧)を最小にするため,人工呼吸器は吸気流量を高くし(60〜80L/分以上),呼吸数を8〜14回/分に設定すべきである。
最初の1回換気量は10?12mL/kgに設定できる。
最高気道圧が高くても,それは高い気道抵抗と吸気流量の結果生じたもので,肺胞圧により生じた肺の膨張の程度を反映したものではないので,通常無視できる。
しかしながら,プラトー圧が30〜35cmH2Oを超える場合には,気胸のリスクを抑えるため1回換気量を5〜7mL/kgに減らすべきである。
例外は,胸壁(例,肥満)または腹部(例,腹水)のコンプライアンス低下が,実質的に圧上昇に寄与している場合である。
1回換気量を減らす必要がある場合,中等度の高炭酸ガス血症は容認できるが,もし動脈血pHが7.10未満まで低下した場合にはpHを7.20〜7.25に維持するために低速での炭酸水素ナトリウム注入が適応となる。
ひとたび気道閉塞が軽減され,Paco2および動脈血pHが正常化すれば,通常患者は速やかに人工呼吸器から離脱できる。
その他の治療法も喘息増悪に有効であると報告されているが,どれも徹底した研究は行われていない。
O2 より低密度のガスであるヘリウムでは乱流が減少するので,それによって呼吸仕事量を減らし,換気を改善するために,helioxが用いられる。
helioxが理論上有効であるにもかかわらず,その効能に関しては矛盾する研究結果が報告されている;すぐに利用できないこともその使用を制限している。
硫酸マグネシウムは平滑筋を弛緩させるが,救急診療部での喘息増悪の管理に有効であるかは議論の余地がある。
喘息発作重積状態の患者への全身麻酔は,機序が不明の気管支拡張を引き起こすが,おそらく気道平滑筋への直接的な弛緩作用またはコリン作動状態の減弱によるのであろう。
●慢性喘息の治療: 適切な薬の服用により,たいていの喘息患者は救急診療部や救急病院の世話にならずに生活できる。
数多くの薬物が利用できるが,薬物の選択および順序は喘息の重症度に基づく。
“ステップダウン”療法―薬物投与量を,症状のコントロールに必要な最小限の量まで減らしていく―はどの重症度の喘息にも適応となる。
軽症間欠型喘息患者には,薬物投与を毎日行う必要はない。
急性症状には短時間作用型β作動薬(例,レスキュー薬としてアルブテロールの2回吸入)で十分である;2回/週を超える使用,年2缶以上の使用,または薬剤に対する反応低下があれば,長期にわたるコントロール療法が必要となる。
喘息の重症度に関係なく,レスキュー用β作動薬が頻回に必要となれば,喘息のコントロールが不十分であることを示している。
●軽症の喘息患者(成人および小児)は抗炎症療法を受けるべきである。
低用量吸入コルチコステロイドが選択薬であるが,一部の患者は肥満細胞安定薬,ロイコトリエン修飾薬,または徐放性テオフィリンを用いてコントロールされうる。
●急激な症状に対するレスキュー療法として,レスキュー用短時間作用型β作動薬(例,アルブテロール,2〜4パフ)が適応となる。
レスキュー療法が毎日必要となる患者は,中用量の吸入コルチコステロイドまたは併用療法が必要である。
●中等症持続型喘息患者は,吸入コルチコステロイドを反応に従って調整した用量で,長時間作用型β作動薬(サルメテロール,2パフ,1日2回)と併用して治療すべきである。
長時間作用型吸入β作動薬単独では治療が不十分であるが,併用により吸入コルチコステロイドの用量を減量でき,夜間症状に効果が高まる。
この方法の代替療法としては,吸入コルチコステロイド単独の中用量の投与,もしくは長時間作用型β作動薬の代わりにロイコトリエン受容体拮抗薬または徐放性テオフィリンを,低〜中用量の吸入コルチコステロイドと併用する方法がある。
GERDを伴った中等症持続型喘息患者では,逆流防止の治療が,症状のコントロールに必要な薬物の頻度と用量を減らしうる。
アレルギー性鼻炎を伴った中等症持続型喘息の患者では,コルチコステロイド点鼻により救急診療部受診が必要となる喘息増悪の頻度を減らしうる。
●重症持続型喘息の患者は少数ではあるが,数種の薬物を高用量で用いる必要がある。
選択肢には,高用量の吸入コルチコステロイドと長時間作用型β作動薬(サルメテロール)の併用療法,または吸入コルチコステロイド,長時間作用型β作動薬,ロイコトリエン修飾薬を併用する療法がある。
短時間作用型吸入β作動薬は,いずれの併用療法においても急激な症状のレスキュー薬として適応となる。
全身投与コルチコステロイドは,これらの投与計画では十分に管理ができない患者に適応となる;隔日投与は,連日投与に伴う有害作用の軽減に役立つ。
●運動誘発性喘息: 運動誘発性喘息は,一般に運動開始前の短時間作用型β作動薬または肥満細胞安定薬の吸入により予防できる。
β作動薬の効果がない場合,または運動誘発性喘息が頻繁で重度の場合は,そのほとんどにおいて患者の喘息は認識されているよりも重症であり,コントロールを目的とした長期療法が必要である。
●アスピリン感受性喘息: アスピリン感受性喘息の治療は,第一にNSAIDの回避である。
シクロオキシゲナーゼ-2(COX-2)阻害薬は誘発物質ではないようである。
ロイコトリエン修飾薬はNSAIDに対する反応を鈍化させうる。
代替療法としては,入院による脱感受性が少数の患者において成功している。
●今後の治療法: 炎症カスケードの特定の構成要素を標的とした複数の治療法が開発されつつある。
IL-4およびIL-13を標的にした治療法の研究が進行中である。
●特別な集団
乳児,小児,および青少年: 乳児では喘息を診断するのは難しい,そのため過小認識および過小治療が一般によくある。
吸入気管支拡張薬および抗炎症薬の経験的治療がその両方に有用でありうる。
薬物は,フェイスマスクの付いたまたは付いていないチャンバーを用いてネブライザーまたはMDIにより投与できる。
治療を週2回以上必要とする5歳未満の乳児や幼児には,吸入コルチコステロイド(好ましい),ロイコトリエン受容体拮抗薬,またはクロモリンを用いた毎日の抗炎症療法を行うべきである。
喘息のある5歳以上の小児や青少年は成人と同様に治療ができるが,身体活動,運動,スポーツを継続するように奨励すべきである。
青少年における肺機能検査の予測正常値は小児(成人ではなく)の基準により近い。
青少年およびしっかりした小児は,コンプライアンスを向上させるために自己の喘息管理計画の作成や自己の治療目的の設定に参加させるべきである。
レスキュー薬が信頼できる迅速な形で利用できるよう,行動計画は先生や学校の保健婦に理解してもらっておくべきである。
クロモリンおよびネドクロミルがこの集団でしばしば試みられるが,吸入コルチコステロイドほどの有効性はない;長時間作用型薬物は,学校での投薬の恥ずかしさを防げる。
●妊婦:
妊娠した女性喘息患者の約3分の1は症状の軽減に気づき;もう3分の1は悪化(ときには重症に)に気づき;残りの3分の1は変化を感じない。
GERDは妊婦に発作を起こす重要な要因となる。
母親の疾患のコントロールが悪いと,胎児死亡,早産,出産時の低体重が増加する可能性があるため,妊娠中の喘息のコントロールは不可欠である。
喘息薬が胎児に有害作用のあることは示されていないが,胎児発育に対する安全性を証明するための大規模で十分管理された研究は行われていない。
以上
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