特定の基礎疾患が認められるときには手術が適切であると考えられる。
通常,心不全患者の手術は専門施設で実施するべきである。
先天性または後天性の心内シャントは外科的縫合により治療できる。
虚血を軽減するための冠動脈バイパスグラフト術は一部の虚血性心筋症患者に有用である。
もし心不全が主に弁膜異常によるものであれば,弁修復術または移植を考慮する。
原発性僧帽弁逆流症患者は,心筋機能不良が術後も継続する可能性のある,左室拡張に続発する僧帽弁逆流の患者よりも利益を得られる可能性が高い。
手術は,心筋の拡大および損傷が不可逆的になる前に行うことが望ましい。
心臓移植(移植: 心臓移植を参照 )は,重度の難治性心不全を有し,他に生命を脅かす疾患のない60歳未満の患者に対する最適な治療法である。
生存率は1年目で82%,3年目で75%である;しかしながら,ドナー待機中の死亡率は12〜15%に上る。
ヒトの臓器提供は依然として少ない。
左室補助装置は移植までの橋渡しとなるが,ごく一部の特定患者では恒久的に使用される場合もある。
人工心臓はまだ実行可能な代替治療ではない。
現在研究中の手術の選択肢には,拡張の進行を減少させる抑制装置の植込みおよび心室修復術と呼ばれる改良型の心室瘤切除術がある。
力学的心筋形成術および拡大心筋部分切除術(バチスタ手術)はもはや推奨されない。
【薬物】
症状緩和のための薬物には利尿薬,硝酸薬,ジゴキシンがある。
ACE阻害薬,β遮断薬,アルドステロン受容体拮抗薬,およびアンジオテンシンU受容体拮抗薬は長期管理に有効であり,生存を改善する。
収縮機能不全と拡張機能不全とでは異なる戦略が用いられる。
重度の拡張機能不全を呈する患者は血圧や血漿量の低下に十分に耐えられないため,利尿薬や硝酸薬は低用量で用いるべきである。
肥大型心筋症患者(心不全および心筋症: 肥大型心筋症を参照 )では,ジゴキシンは有効でなく,有害となりうる。
●利尿薬:
利尿薬は症候性の収縮機能不全の患者全員に投与される;用量は,体重が安定し症状が緩和される最低用量に調節する。
ループ利尿薬が望ましい。
フロセミドが最も頻用されており,20〜40mg,1日1回で経口投与を開始し,もし反応および腎機能に基づいて必要であれば120mg,1日1回(または60mg,1日2回)まで増量する。
ブメタニドは代替薬である。
難治例では,フロセミド40〜160mg静注,エタクリン酸50〜100mg静注,ブメタニド0.5〜2mg経口もしくは0.5〜1.0mg静注,またはメトラゾン2.5〜10mg経口が相加作用を示すことがある。
ループ利尿薬(特にメトラゾンと併用時)は,低血圧症,低ナトリウム血症,低マグネシウム血症,および重度の低カリウム血症を伴う循環血液量減少を引き起こすことがある。
●ACE阻害薬:
禁忌(例,血漿クレアチニン> 2.8mg/dL[250μmol/L],両側腎動脈狭窄,片腎の腎動脈狭窄,またはACE阻害薬による血管性浮腫の既往)でなければ,収縮機能不全患者全員にACE阻害薬を経口投与する。
ACE阻害薬は,アンジオテンシンUの産生およびブラジキニンの分解を抑制し,これらは交感神経系,内皮機能,血管緊張,および心筋機能に影響を及ぼすメディエーターである。
血行動態作用には,動脈および静脈の拡張,安静時および労作時の持続的な左室充満圧低下,全身血管抵抗の低下,心室リモデリングに及ぼす好ましい作用がある。
ACE阻害薬は生存期間を延長し,心不全による入院を減らす。
粥状動脈硬化および血管障害の患者では,これらの薬物は心筋梗塞および脳卒中のリスクを低下させうる。
糖尿病患者では腎症の発症を遅らせる。
したがって,ACE阻害薬は拡張機能不全およびこれらの障害のいずれかを有する患者に用いられる。
●アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB):
ARBがACE阻害薬よりも優れているとは証明されていないが,咳嗽および血管性浮腫の発生頻度は低いようである;ARBは,このような副作用によりACE阻害薬の使用が禁じられるときに使用できる。
ACE阻害薬およびARBが慢性心不全に同等の効果を示すかは不明であり,その最適用量はいまだ研究中である。
通常の経口標的用量は,バルサルタン160mg,1日2回,カンデサルタン32mg,1日1回,ロサルタン50〜100mg,1日1回である。ARBおよびACE阻害薬の導入,漸増,モニタリングの方法は同様である。
ACE阻害薬と同様,ARBは可逆的な腎機能不全を引き起こしうる。
急性疾患による脱水または腎機能不良が生じた場合は,ARBの一時的な中止が必要となりうる。
症状が持続し入院を繰り返す心不全患者に対しては,ACE阻害薬,β遮断薬,および利尿薬にARBの追加を考慮するべきである。
このような併用療法では,血圧,血漿電解質,および腎機能のモニタリング回数を増やす必要がある。
以上