●正常調律:
成人における安静時の洞心拍数は通常60〜100拍/分である。
心拍数の低下(洞徐脈)は若年者,特に運動選手(スポーツと心臓: 診断を参照 ),および就寝中に起こる。
心拍数の上昇(洞頻脈)は,交感神経および循環カテコールアミンの作用を介して運動,疾患,または情動とともに起こる。
正常では,心拍数の著明な日内変動が起こり,早朝覚醒直前の心拍数が最も低下する。
吸気時のわずかな心拍数増加および呼気時の心拍数減少(呼吸性洞性不整脈)も正常である;
迷走神経緊張の変動がこれを介在し,特に健康な若年者に一般的にみられる。この変動は加齢とともに減少するが,完全には消失しない。
完全に規則的な洞調律拍動は病的であり,自律神経系の脱神経(例,進行した糖尿病)または重度心不全を有する患者に生じる。
ほとんどの心臓電気活動は心電図に現れるが,洞房結節,房室結節,およびヒス-プルキンエ系の脱分極は,関与する組織が少なく検出されない。
P波は心房脱分極を示す。QRS波は心室脱分極を示し,T波は心室再分極を表す。
PR間隔(P波の開始からQRS波の開始まで)は,心房興奮開始から心室興奮開始までの時間である。
この間隔の多くは,房室結節におけるパルス伝導の遅延を反映する。
RR間隔(2つのQRS波間の時間)は心室拍動速度を表す。
QT間隔(QRS波の開始からT波の終了まで)は,心室脱分極の持続時間を表す。
QT間隔の正常値は,女性においてわずかに長く,心拍数が低下しても長くなる。
QT間隔は心拍数の影響について補正する(QTc)。
●●● 病態生理 ●●●
調律障害は,パルス生成,パルス伝導,またはその両方の異常から生じる。
徐脈性不整脈は,主に房室結節やヒス-プルキンエ系内の内因性ペースメーカー機能低下や伝導ブロックから生じる。
ほとんどの頻拍性不整脈はリエントリーに起因するが,一部は,正常自動能の亢進または自動能機序の異常から生じる。
リエントリーとは,伝導特性および不応期が異なる2つの伝導路が相互に連絡し,それをパルスが旋回伝播することである(不整脈および伝導障害: 典型的回帰の機序)。
特定の状況下(典型的には期外収縮によって促進される)で,リエントリーは興奮波面の持続的な旋回を引き起こし,頻拍性不整脈が生じる(不整脈および伝導障害: 房室結節内リエントリー性頻拍の開始)。
正常では,リエントリーは刺激に続いて起こる組織の不応期により阻止される。
しかしながら,次の3状態ではリエントリーが好発する:
組織の不応期の短縮(例,交感神経刺激による),伝導路の延長(例,肥大または伝導路異常による),パルス伝導の遅延(例,虚血による)。
●●● 症状と徴候 ●●●
不整脈および伝導障害は無症候性のこともあるが,動悸(脈の欠滞,速い脈,もしくは激しい脈の感覚―心疾患患者へのアプローチ: 動悸を参照 ),血行動態不全症状(例,呼吸困難,胸部不快感,前失神状態,失神),または心停止を引き起こすこともある。
ときに,遷延性の上室性頻拍中に心房性ナトリウム利尿ペプチドの放出による多尿が生じる。
脈の触診や心臓の聴診により心室拍動およびその規則性や不規則性が明らかにされる。
頸静脈波の診察は,房室ブロックや心房性頻脈性不整脈の診断に有用となる。
例えば,完全房室ブロックでは,房室弁が閉鎖するときに心房が断続的に収縮し,頸静脈波に巨大a(キャノン)波が生じる(心疾患患者へのアプローチ: 静脈を参照 )。
不整脈の身体所見は他にほとんどない。
(明日へ続く)