炎症性腸疾患(IBD)は,クローン病および潰瘍性大腸炎(UC)を含み,下痢および腹痛をもたらす消化管各部の慢性炎症を特徴とする,再発と寛解を繰り返す病態である。
炎症は,消化管粘膜における細胞性免疫反応により生じる。
正確な病因は不明である;証拠が示唆するところによると,多因子性の遺伝的素因(おそらく,異常な上皮性関門および粘膜の免疫防御が関与)を有する患者において,正常腸内細菌叢が免疫反応を引き起こすということである。
特異的な環境的,食事性,感染性の原因は同定されていない。
免疫反応には,サイトカイン,インターロイキン,および腫瘍壊死因子(TNF)などの炎症メディエーターの放出が関与している。
クローン病とUCは似ているが,両者はほとんどの症例で鑑別できる。
大腸炎症例の約10%は中間型と考えられる。
大腸炎という用語は,大腸の炎症性疾患に対してのみ適用される(例,潰瘍性,肉芽腫性,虚血性,放射性,感染性)。
痙攣性(粘液性)大腸炎というのは,機能障害である過敏性腸症候群(下部消化管症状を訴える患者へのアプローチ: 過敏性腸症候群(IBS)を参照 )に対してときどき用いられる誤称である。
●炎症性腸疾患の疫学
IBDは全ての年齢で起こるが,通常,30歳未満に始まり,発生率のピークは14〜24歳である。UCは50〜70歳に1回目よりは小さい2回目のピークがあることがある;しかしながら,この後のピークには一部の虚血性大腸炎症例が含まれている可能性がある。
IBDは北欧人およびアングロサクソン系の人に最も多く,ユダヤ人では数倍多い。
中欧および南欧において,発生率はより低く,南米,アジアおよびアフリカにおいてはさらに低くなる。
しかしながら,北米に居住する黒人およびラテンアメリカ人における発生率は増加している。
罹患率に男女差はみられない。IBD患者の第1度近親者は,リスクが4〜20倍高い;その絶対リスクは7%にまで達することがある。
家族性の傾向は,UCよりもクローン病においてずっと高い。
クローン病(UCではない)のリスクを増大させる特定の遺伝子突然変異が同定されている。
喫煙はクローン病の発症または増悪の一因となるようであるが,UCのリスクを低下させる。
非ステロイド性抗炎症薬はIBDを悪化させることがある。
●腸管外発現
クローン病およびUCは双方とも腸以外の器官を侵す。
腸管外発現のほとんどは,小腸に限局するクローン病よりも,UCおよびクローン結腸炎で起こることが多い。
腸管外発現は次の3つのカテゴリーに分類される:
1.通常,IBDの急性増悪に平行する(すなわち,それとともに再燃と寛解を繰り返す)障害。
これらには,末梢関節炎,上強膜炎,アフタ性口内炎,結節性紅斑,および壊疽性膿皮症などがある。関節炎は大関節を侵す傾向があり,また,移動性および一過性の傾向がある。
IBDで入院している患者の3分の1以上で,これらの平行する障害のうち1つ以上が発現する。
2.おそらくIBDから生じるが,IBDの急性増悪とは無関係のように思われる障害。
これらには強直性脊椎炎,仙腸骨炎,ぶどう膜炎,および原発性硬化性胆管炎などがある。
強直性脊椎炎は,HLA-B27抗原を有するIBD患者に好発する。
脊椎または仙腸骨病変のある患者の大多数は,ぶどう膜炎の所見を有し,逆のこともいえる。
原発性硬化性胆管炎は胆道癌の危険因子であり,胆道癌は結腸切除から20年後でも発症することがある。
患者の3〜5%に肝疾患(例,脂肪肝,自己免疫性肝炎,胆管周囲炎,肝硬変)が起こるが,軽度の肝機能検査値異常はより高頻度にみられる。
これらの病態の一部(例,原発性硬化性胆管炎)はIBDの発症よりも何年も前に起こることがあり,診断時にIBDの評価を行うべきである。
3.腸の生理機能の障害が原因して生じた結果である疾患。
これらは主に,重度の小腸クローン病において起こる。
吸収不良は,広範な回腸切除により生じ,ビタミンB12およびミネラルの欠乏を引き起こすことがあり,結果として貧血,低カルシウム血症,低マグネシウム血症,凝固障害,骨の無機質減少,小児では成長および発達の遅延が起こる。
他の障害には,食事性シュウ酸の過剰吸収に起因する腎結石,腸の炎症過程による尿管圧迫から生じる水尿管症および水腎症,胆汁酸塩の回腸での再吸収障害による胆石,および長期間続く炎症や化膿性疾患に続発するアミロイドーシスなどがある。
3つの全てのカテゴリーの多数の因子が原因で血栓塞栓症が起こることがある。