治療は高血糖をコントロールして症状を改善し合併症を予防すると同時に,低血糖の出現を最小限にとどめることである。
治療目標は,日中は80〜120mg/dL(4.4〜6.7mmol/L),就寝前は100〜140mg/dL(5.6〜7.8mmol/L)に血糖値を維持すること(家庭での測定によって決定する,糖尿病と炭水化物代謝異常症: モニタリングを参照 ),およびHbA1c値を7%未満に維持することである。
これらの目標は,高齢者,余命の短い患者,低血糖発作,特に無自覚低血糖を繰り返す患者,低血糖症状の存在を伝えられない患者(例,幼児)など厳格な血糖コントロールが勧められない患者では調整されることもある。
全ての患者で重要となる要素は,患者教育,食事指導,運動指導,および血糖コントロールのモニタリングである。
T型糖尿病の全患者はインスリンを必要とする。
血糖値が軽度上昇したU型糖尿病患者には食事療法および運動療法を試験的に処方すべきであり,生活様式の変更で不十分であれば続いて単一の経口血糖降下薬を処方し,必要に応じて経口薬を追加して(併用療法),2剤以上を使用しても推奨目標の達成に有効でないときにはインスリンを処方する。
診断時により顕著な血糖上昇がみられるU型糖尿病患者には,典型的には生活様式の変更および経口血糖降下薬を同時に処方する。
妊娠中のU型糖尿病患者,および非ケトン性高浸透圧症候群(NKHS)またはDKAなどの急性代謝代償不全を呈する患者では,インスリンが初期療法として適用となる。
血糖調節障害患者は,糖尿病発症のリスク,および糖尿病予防を目的とした生活様式の変更に焦点を当てたカウンセリングを受けるべきである。
これらの患者では,糖尿病症状または血糖上昇がないかを慎重に監視すべきである;理想的な経過観察間隔は明らかにされていないが,年1回または2回の検査が恐らくは適切であろう。
糖尿病の原因,食事,運動,薬物,手指での自己血糖測定,ならびに低血糖,高血糖,および糖尿病合併症の症状や徴候についての患者教育は,治療を最適化するために不可欠である。
大半のT型糖尿病患者には,インスリン用量の調節方法を指導する。
教育は毎回の診察時および入院時に強化すべきである。
一般には糖尿病専門看護師および栄養士によって実施される正規の糖尿病教育プログラムは,しばしばきわめて有効となる。
個人の状況に合わせた食事は患者が血糖値の変動を調節する際に有用となる場合があり,U型糖尿病患者では体重を減らす上でも役立つ可能性がある。
一般に,全ての糖尿病患者は飽和脂肪やコレステロールが少なく,中等量の炭水化物(望ましくは食物繊維含有量の多い全粒粉由来の炭水化物)を含む食事について教育を受ける必要がある。
食物中の蛋白および脂肪は熱量摂取(したがって体重の増減)に関与するが,唯一炭水化物が血糖値に直接的な影響を及ぼす。
炭水化物が少なく脂質の多い食事は一部の患者で血糖コントロールを改善するが,長期の安全性については不明である。
T型糖尿病患者は,インスリンの用量と炭水化物の摂取量とを釣り合わせて生理的なインスリン補充に役立てるために,カーボカウントまたは炭水化物交換システムを使用すべきである。
食事中の炭水化物量の“カウント”は,食前のインスリン用量の算出に使用する。
一般に患者は,食事中の炭水化物15gにつき1単位の超速効型インスリンを必要とする。
このアプローチには詳細な患者教育が必要であり,経験豊富な糖尿病専門栄養士が指導を行ったときに最も成功しやすい。
一部の専門家は,glycemic indexを使用して急速に代謝される炭水化物と緩徐に代謝される炭水化物との境界を明らかにすることを勧めるが,他の専門家はこの指数にはほとんど効果がないと考えている。
U型糖尿病患者は熱量を制限し,規則正しく食事をし,食物繊維の摂取を増やし,精製炭水化物および飽和脂肪の摂取を減らすべきである。
一部の専門家は,早期腎症の進展を予防するために食事蛋白を0.8g/kg/日以下に制限することも推奨している(糸球体疾患: 糖尿病性腎症を参照 )。
栄養指導は医師の診察を補完すべきであり,患者および患者の食事を用意する者のいずれもが指導に参加すべきである。
運動には,どのようなレベルであれ患者が耐容できる程度まで身体活動を漸増させることを含むべきである。
一部の専門家は,減量および血管疾患予防には等尺性運動よりも有酸素運動が優れていると考えるが,筋力トレーニングも血糖コントロールを改善する場合があり,あらゆる種類の運動は有益である。
運動中に低血糖症状を経験する患者には,血糖値を測定し,必要に応じて炭水化物を摂取するかインスリンの用量を減らし,運動直前の血糖値が基準範囲をわずかに上回るように指導する。
激しい運動中に生じる低血糖では,運動中に炭水化物,典型的には5〜15gの蔗糖または他の単糖の摂取が必要となることもある。
心血管障害が診断されている,または疑われる患者では,運動プログラム開始前に運動負荷試験を実施すると有益な場合があり,神経障害や網膜症などの糖尿病合併症を有する患者では活動目標を下げる必要が生じることがある。
モニタリング: 糖尿病コントロールは血糖,HbA1C,またはフルクトサミンの値を用いて監視できる。
指先の血液,試験紙,および血糖測定器を用いた自己全血血糖モニタリングが最も重要である。
これは患者が食事摂取量や インスリン を調節し,医師が薬物の投与時間や用量の調節を勧める際に役立てる。
多数の異なるモニタリング装置が利用可能である。
ほぼ全ての装置が,試験紙および皮膚を刺して検体を採取する手段を必要とする;大半には対照溶液が付属しており,装置が適切に較正されているかを確認するために定期的にこれを使用すべきである。
装置の選択は,結果が出るまでの時間(通常は5〜30秒),表示パネルの大きさ(大スクリーンは視力の低下した患者に有益となりうる),較正の必要性など,装置の特色に関する患者の嗜好に基づいて通常は行う。
指先よりも疼痛の少ない場所(手掌,前腕,上腕,腹部,大腿)での測定が可能な測定器も市販されている。
新型の装置は血糖を経皮的に測定するが,これらの使用には皮膚刺激および不安定な測定による限界が生じている;より優れた技術によって,このような装置によるほぼ持続的な測定が間もなく可能になるであろう。
血糖コントロールの不良な患者,新しい薬物が処方された患者,または既に使用中の薬物の用量が変更になった患者は,自己血糖測定を1日1回(通常は早朝空腹時)〜5回以上行うように求められる場合があり,これは患者の必要性や能力,治療計画の複雑さに依存する。
大半のT型糖尿病患者は,少なくとも1日4回の測定を行うことによって恩恵を受ける。
HbA1C値は,先行する2〜3カ月間の血糖値を反映し,したがって受診と受診との間のコントロールを評価する。
HbA1C値はT型患者では3カ月毎に,血糖値が安定していると考えられるU型患者では少なくとも年1回(コントロールが不明確なときにはより頻回に)評価すべきである。
家庭検査キットは,検査説明書に正確に従える患者に有用となる。
HbA1C値によって示唆されるコントロールは,ときに毎日の血糖測定によって示唆されるコントロールと異なるように見受けられ,これは高値や基準範囲内の値が誤って示されるためである。
偽高値は,腎不全(尿素が定量を妨げる),赤血球代謝の低下(鉄欠乏性貧血,葉酸欠乏性貧血,またはビタミンB12欠乏性貧血でみられるような),高用量アスピリン,血中アルコール濃度高値などで生じうる。
溶血性貧血および異常ヘモグロビン症(例,HbS,HbC)などでみられる赤血球代謝の亢進,または欠乏性貧血の治療中には,基準範囲内の値が誤って生じる。
フルクトサミンは,大半は糖化アルブミンであるがその他の糖化蛋白からもなり,過去1〜2週間の血糖コントロールを反映する。
フルクトサミンのモニタリングは,糖尿病の集中治療中の患者や,変異ヘモグロビンを有する患者,または赤血球代謝の亢進している患者(HbA1Cの誤測定が生じる)に用いられることもあるが,主に研究の場で使用される。
尿糖のモニタリングは高血糖の大まかな指標となり,血糖モニタリングが不可能なときにのみ推奨される。
一方,嘔気,嘔吐,腹痛,発熱,感冒様症状,インフルエンザ様症状,自己血糖測定上で異常に持続する高血糖(>250〜300mg/dL)など,ケトアシドーシスの症状,徴候,または誘引を認めるT型糖尿病患者では尿ケトン体の自己測定が推奨される。
インスリン: インスリンは,インスリンがなくてはケトアシドーシスを起こすT型糖尿病の全患者で必要となり,多くのU型患者の管理にも有用である。
インスリン補充は,2種のインスリンを使用して基礎および食事時の必要量をまかなうことで,理想的にはβ細胞機能を再現すべきである(生理的補充);これには,食事,運動,およびインスリンの投与時間や用量に対する細心の注意が必要となる。
現在では大半のインスリン製剤は組換えヒトインスリンであり,インスリンが動物から抽出されていた頃には一般的であった薬物に対するアレルギー反応は実質的になくなっている。
レギュラーインスリン静注がまれに使用されることを除き,インスリンは皮下投与される;ヒトインスリン分子を修飾して皮下吸収速度を変化させることで作られた多数のアナログが市販されている。
インスリンの種類は,一般的に作用の発現時間および持続時間によって分類される。
しかし,様々な因子(例,注射部位,注射技術,皮下脂肪量,注射部位の血流)に依存して,これらのパラメーターは患者内および患者間で異なる。
続く